Kimmy's Lab.

フルート好きのリケジョkimmyによる裏研究所

フルートを科学する ~ 室温とピッチ ~

熱くてムシムシする~
こんなときにフルート吹いてると,なんだか音が鳴りにくい(><)
頭もボーっと・・・熱中症!?
防音室の空気が入れ替わって,快適な温度と湿度にしてから吹いてみると,いつもどおり鳴る.

温度や湿度によって吹きやすさが変わるのは,なぜだろう?
経験上,ピッチはすごくズレる.あまりにズレすぎて鳴りにくいのかな.
温度や湿度によってピッチがズレるのは,音速が変わるからだろう.
湿度はちょっと話がややこしいので,温度によってどれくらいピッチが変わるのか計算してみた.

温度と音速

音速cは以下の式であらわされる.

 \displaystyle
c=\sqrt{(kRT)/M} ①

k:比熱比,R:気体定数M:分子量,T:絶対温度

空気の場合,k = 1.4030,R = 8.3145,M = 0.0290 kg/mol.
温度がtのとき,絶対温度は,T = 273.15 + t ℃.

式(1)から,温度と音速は以下のようになる.

表1 温度と音速

温度t [℃] 15 19 20 21 25
音速c [m/s] 340.7 343.0 343.6 344.2 346.5

これがどのくらいピッチに影響するのか?

温度とピッチ

周波数fと音速の関係は以下の式であらわされる.

 \displaystyle
f=\frac{c}{\lambda} ①

ここでλは波長.これは,ほぼ管の長さLで決まるはず.(開口端補正や音孔の影響は無視)
フルートは両側開端なので,管の長さLは,ほぼ半波長分の長さ.(L=λ/2)
式(2)は,

 \displaystyle
f=\frac{c}{2L} ②

20℃の環境で,いつものラの音,つまりA5(884Hz)の音でチューニングしたとすると, 低いラの音(A4: 442Hz)の管長Lは388 mm程度.(A4の倍音がきっちりA5と仮定)

音速が表1のように変化すると,A4の周波数は以下のように変化する.

表2 温度と周波数

温度t [℃] 15 19 20 21 25
A4周波数f_{a4} [Hz] 438.2 441.2 442.0 442.8 445.8
A5周波数f_{a5} [Hz] 876.4 882.5 884.0 885.5 891.5
A6周波数f_{a6} [Hz] 1314.6 1323.7 1326.0 1328.3 1337.3

温度が1℃上下すると,周波数は0.75Hzくらい上下する.
このくらいなら許容範囲?でも5℃上下すると3.7Hzくらい上下する.これは聴いてわかる?

同様にして,中音と高音のラについても周波数を求めてみると,高音ほど温度による周波数変化は大きい.

人間の耳がこれをどう感じるかはわからない.
もしかしたら高いラのピッチのズレは,低いラのズレより気にならないかもしれない.

人間の耳の感度はさておき.

このピッチの上がり下がりを補正するために,管をどれくらい抜き差ししないといけないか見積もってみた.

ふつうはA5でチューニングすると思うので,管を\Delta{L}だけ抜き差しして,

 \displaystyle
\frac{c}{L+\Delta{L}}=884 Hz ①

にすることになる.これを満たす\Delta{L}を計算すると以下のようになる.

表3 管の抜き差し必要量

温度t [℃] 15 19 20 21 25
長調整量\Delta{L} [mm] -1.7 -0.3 0.0 0.3 1.7

温度が1℃上がる(下がる)と,0.3mmくらい抜く(差し込む)必要がある.
5℃変化すると1.7mmくらい.

今回の計算は,開口端補正などを無視してシンプルに計算しているので,実際はこのとおりではありません!
私の場合,夏と冬で練習環境の温度差は10℃くらいあり,3mmくらい管を抜き差ししているので,だいたいこの計算どおりか.
日本の夏場は,湿度も上がるので,音速がやや速くなり,さらに管を抜く必要が出てくると思われる.それが何ミリかは・・・興味ある人は見積もって!